あかいはな

□あかいはな
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「彰人兄さん。このおはな、綺麗なあかい色をしています。」

そう言って花瓶の花を取り換えながらいつものように優しく笑う。
この笑顔は本当に美しい。
西洋風の顔立ちが僕にはめずらしいのだろうか。
彩都、僕とは血のつながりの無い弟。
僕は色がわからない。
だから彩都はこうして色を伝えてくれる。
といっても色は全くわからないままなのは変わりない。

先ほどまで寝ていたせいか、寝間着が乱れていて肩があらわになっていた。

「彰人にいさん、またお着物が乱れていますよ。」

彩都はそういって僕の方へ近づいてきて慣れた手つきで優しく繊細に寝間着を直していく。

「いつもありがとう、彩都。僕はいつまでたっても子供のままだ。」

「くすっ、そうですね。お着物を綺麗なまま寝るのはなかなか難しいものです。仕方ありませんよ。」

彩都は完璧だ。
嫌な顔ひとつせずただ乱れた寝間着を直す。
そのしぐさひとつも見惚れるものだった。

「彰人にいさん。あいかわらずお肌がお綺麗ですね。」

そう言ってツーッと首をなぞる。
目はトロンとしていて色っぽい。
こうなるともう彩都は僕の言うことを聞かない。

「彰人にいさん…少しだけ。」

彩都はこの時に息抜きをしているのかもしれない。
時々こうやって僕の胸にすりついてきて離れない。
少しだけ感じる彩都の体重が心地いい。
完璧な人間の弱さを見るのはなんとなく不思議な気持ちだ。
完璧といっても人間だからどこか欠陥があるというのも正しいと思うが、僕は完璧な人間が完璧であり非の打ち所がないのが欠陥であるとも思う。
そう思わせるのは紛れもなく彩都である。

「彩都。」

「なんですか、兄さん。」

「・・・お前は働きすぎだ。たまには休め。」

「・・いいえ、大丈夫です。僕はまだまだ未熟者です。早くお父様の助けになるくらい立派にならなければ。」

こういう意思の固いところとか、純粋なところは少し子供っぽくてかわいらしく思う。
僕は彩都の頭をやさしくなでた。
すると気持ちよさそうに目を細め腕の力を強めてきた。

「兄さん、兄さん。」

「どうした?」

「兄さんには僕の姿はどう見えますか?」
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